自分好みの店を見つける“鼻”は割とよく利く方です。
そして、食いしん坊で食い意地がはっているため
「絶対に不味いものを食べたくない」という思いが人一倍強く、
ピンとくるお店がみつかるまで、ねばり強く町を歩いて探します。

観光客でにぎわう富山駅前から歩いて十数分。
ふと気になって足を踏み入れた路地裏にある一軒のお店の
店頭に掲げられた手書きの看板に目が留まりました。

お客様へ
当店は居酒屋ですので
お酒を飲めない方や飲まない方、
そしてラーメンだけの方をお断りさせて頂きます。
ご了承ください。 店主

「これは..私は呼ばれている!」と感じ、店のドアを思い切って開けました。

小さな店内は、
L字型のカウンターが配置されていて、まるでスナックのよう。
そしてカウンターの端っこには常連さんらしき年配の方と、
その反対側の端には20代後半くらいの会社員っぽい男の子たちが座って
しっぽりお酒を飲んでいます。

店主さんと目があって私が開口一番に言ったのは
「おいしいお酒が飲みたいんですけど、いいですか?」…笑。

言葉数は多くはないけれども、
穏やかな雰囲気の店主の中嶋さんはあたたかく迎え入れてくれました。

壁のメニューに書かれた中嶋さんが目利きで選んだ
富山でつくられたお酒を中心に揃えられたラインナップは、
どれも興味惹かれるものばかり。

さしたる日本酒の知識も持たない私の拙い質問にも、
ひとつひとつ丁寧に答えてくれました。
中嶋さんの話を聞くことによって、
ほぼ前知識のなかった富山の酒づくりの全体像がふんわりと頭に入ってきました。

そして、お酒を愉しむためにつくられたお料理は何を食べても美味!

飲んだり食べたり中嶋さんとおしゃべりしたりするのに夢中で
ほとんど写真を撮ってないんだけれども、
この山菜の昆布〆はあまりに美味しくて、
記憶にも記録にも止めておきたくて、一眼レフで写真を撮らせてもらいました。

北前船に寄港地だった富山は
ふるくから北海道から昆布が運び込まれていました。
そんな歴史もあって、富山県は日高昆布の消費量が日本一。
そして、立山連峰など北アルプスの山々がすぐ近くにある富山の人にとっては
山菜もとても身近な食材で、こうして昆布〆にして食べることが多いのだとか。
山菜のほろ苦さと、昆布の旨味があいまった味わいは
日本酒のアテとして最高です!

こちらは、中嶋さんが自らの思いを込めて作ったお酒「純米大吟醸  中嶋」。
「袋吊り」といったもろみを入れた袋に圧力を加えず搾る贅沢な製法でつくられていて、
クリアな味わいながらも上品な香りと優しい旨みがあって、たまらない美味しさ。

ほぼ原価に近い金額で提供しているとのことで、
この中嶋が飲めるのは1回の来店で1杯だけ。

そうと知らずおかわりをお願いして
それを告げられしょんぼりしているところ、
常連のお客さんが「僕はいつでも来れるから、僕の分を彼女に」と譲ってくれました。
なんて優しくて、ありがたいこと!!!
お言葉に甘えて2杯目もいただきました。

夜も更け、8席ほどの座席は常連さんや旅行客などでいい感じの賑わいに。
そして中嶋さんのお人柄もあってか、程よい距離感でお客さん同士での会話も弾みます。

そしてなんと、
中嶋さんは「富山ブラック」の元祖と言われるお店で長年ラーメンをつくっておられたそう。
しかも、その前は東京の有名蕎麦店で料理人として勤めていた経験をお持ちなのだとか。
思うところあって、勤めていた店を辞めて自分の店をはじめたとのこと。
ラーメン店と蕎麦店での経験があるからこその、
この魅力的なメニューのライナップであることに納得です。

正直、私はラーメンにあまり興味がありません。
だから、ゴールデンウィーク中の長蛇の列に並んでまで
富山ブラックを食べることは予定していませんでした。
なのに、こんなところで「富山ブラック」の源流に出会え、
こんなに美味しいラーメンをいただけることになるとは!

中嶋さんの作る富山ブラックは、
スープに旨みがしっかりあって、
富山ブラックの特徴と言われるしょっぱさがありつつも、上品な味わいでした。
スープは蕎麦つゆの“かえし”の技術を応用して、
数日かけて ていねいに煮詰めたあと、しばらく熟成させて作られているそう。
なので蕎麦好きの私も、とてもおいしく愉しむことができました。

ふぅ、お腹いっぱい!
素晴らしい旅の出会いのおかげで、心もとっても満たされました。

今回はことさら自分の食い意地とよく利く鼻を褒めてあげたいと思いました。

そして、中嶋さんのお店のことを思うと、
またすぐにでも富山に行きたくなるのです。

中嶋
富山県富山市内幸町2-10 松よしビル 1F
076-441-1124
https://tabelog.com/toyama/A1601/A160101/16006469/